📖 読書記録:小説『カフネ』-傷ついた心に、やさしく寄り添う本-

「カフネ」という言葉には、愛する人の髪にそっと指を通す、あるいは頭を撫でて眠らせるような、やさしく穏やかな動作という意味がある。
その静かなぬくもりは、この小説全体に流れる感情とぴたりと重なる。

主人公は41歳、バツイチで子どももおらず、弟を突然亡くし、心にぽっかりと穴をあけたような日々を過ごしていた。
不妊治療の中で苛立ちを夫にぶつけてしまったことへの後悔、離婚の理由も曖昧なまま残されてしまった痛み——そういった感情の層の深さが、読者にもリアルに伝わってくる。

そんな彼女の元に残されたのは、亡くなった弟の遺書。そこには、かつての元恋人・小野寺せつなに遺産を渡してほしいという言葉が書かれていた。
「なぜ?」 という疑問から始まったせつなとの接触は、やがて主人公のすさんだ心を少しずつほどいていく。

この物語の中で、私が特に印象に残ったのは、「親の愛」が子どもを無意識に縛りつけてしまうことを言語化したラストのシーンだ。
どれだけ期待を裏切られても、簡単に親と縁を切れない苦しさ。
「愛されていたのに、なぜこんなにも傷ついたのか」という矛盾は、多くの人の中にあると思う。
その繊細な心の葛藤が、丁寧に描かれていて深く共感した。

また読んで感じたのは、無償で人に尽くすという行動は、自分の心を満たしてくれる“プライスレス”な体験であるということ。
人に何かをしてあげることで、結果として自分が救われていく——この小説には、そんな優しさが静かに流れていた。
そしてもう一つ、作中に出てくるおいしいご飯や、きれいに整った部屋の描写が、読むだけで癒やされる。
日々に疲れて心の戦闘力がマイナスになっているとき、あたたかい食事と安心できる空間が、それを“ゼロ”あるいは“プラス”へと戻してくれる。
それは、何気ないようでいて、とても大きな回復力を持っているのだと思う。

この小説をおすすめしたいのは、人間関係で傷ついた人、そして心の中にまだ癒えていない痛みを抱えている人。
『カフネ』は、劇的な救いではなく、そっと寄り添ってくれるような物語だ。
まるで「そばにいて、何も言わずに髪を撫でてくれる誰か」がページの向こうにいるような、そんなやさしさがある。

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